これといった取り柄もないし、仲の良い同級生もいない。
 平凡な成績と、平均点のテストが勲章。
 息を吸って吐いて、また明日。
 居ても居なくても変わらない、徹底したモブキャラクター。
 僕は自称『棒人間』なのだ。



「ただいま」
 あまり広くない、安い家賃の部屋。
 春よりは暑いが夏より涼しい、という中途半端な気温のなか帰宅した。
「おかえりー」
 僕を出迎える少女の声。
 部屋のなかには、もう見慣れた少女の姿があった。
 細い指を手持ち無沙汰そうに組んで、にっこり微笑む。
「うん、ただいま、七色さん」
「二回目だね。おかえりー棒さん」
 彼女は、この部屋に住みついている地縛霊。
 しかし半透明じゃないし足もある。
 普通の少女にしか見えない。
 そんな彼女のことを、ありったけの親しみを込めて七色さんと呼んでいる。
 今年の春に引っ越してきてからの付き合いなので、まだ付き合いは短い。
「高校、馴染んだ?」
「馴染むもなにもないよ。棒人間だからね」
 もう夏も間近だし、ある程度のグループも出来上がってきている。
 僕はといえば、どのグループにも属さず、いじめっこでもいじめられっこでもない。
 モブキャラクター魂をもってして、棒人間としての立ち位置を確かなものにした。
 制服を脱ぎ、半そでになって伸びをする。
「なんか嬉しそう?」
「うん、満たされてる」
「そっか? よかったね」
「これで素晴らしき棒人間ライフを送れるー」
「やっぱり変わり者だよね、棒さん」
 そうかな。
 ……うん、周りとは違うだろうし、そうなのかもしれない。
 僕は徹底して一人を好む。
 友達作って仲良しこよしは、なんだか好きになれないのだ。
 たった一人の例外は居るけど。
「七色さんは友達」
「うん、仲良し」
 初対面のとき、なんだか七色さんとは上手くやっていけるって思った。
 棒人間の勘は鋭いのだ。
 実際、ここまで嫌気が差さない人付き合いって、僕のなかではかなり珍しい。
 ひたすら癒し。
 ペットみたいな言い草だ。
「……言い得て妙」
「ん?」
「なんでもない」
 テーブル越しに向かい合うようにカーペットの上に座ると、ふうと息を吐く。
「そろそろ水も生ぬるくなる季節」
「うん」
「もう氷とか必要かな?」
「まだ早いんじゃないかなー」
「棒人間は涼を求めているのだ」
「うん、じゃあ今日から氷水」
「やった、今日から氷水」
「私の許可って要るのー?」
「だって僕だけ冷たいの飲んでも気まずいし」
「ん、そうかも」
「でしょ」
 氷を取り出すために立ち上がる。
 そこでやっと、少し汗ばんでるのに気付いた。
「……シャワー浴びてからにしよう」
「はーい」
「シャワーはまだお湯でいい。水はさすがに寒い」
「そうだね」
「でもぬるま湯なら、いやまだ早いか。でもどうだろう」
「浴びながら決めよう」
「ん、そうする。七色さん、制服をハンガーに掛けておいて」
「はーい」
 制服を任せ、風呂場へ向かう。
 着ていたものを脱ぎ捨てて浴室へ。
「……ん」
「どしたのー?」
 七色さんは浴室の外に居るらしい。
「また膨らんだ」
「そっか」
「バレなきゃいいんだけど」
「棒さん、ほんとは女の子だもんねー」
「棒人間に性別など要らぬのだ。まだ大丈夫だと思う」
 棒人間は抜かりないのだ。
 じゃあ安心、と笑う七色さん。
 僕はこの七色さんの声が好きなのだ。



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