「棒さんは、私に触れるんだよね」
 七色さんが訊いてくる。
 僕と向かい合い、テーブルを隔てて座る彼女は、幽霊とは思えぬほど鮮明だ。
「まあね。棒人間だし」
「わぁ、棒人間すごい」
 七色さんの手を取る。
 しっかり感触はあるし、人肌の温もりも感じる。
 本当に幽霊かと疑いたくなるくらいだ。
「どう?」
「どうって?」
「私の手、どんな感じ?」
「普通の人と変わらないよ。あんまり繋いだことないけど」
「棒人間だもんね」
「その通り」
 棒人間の手は細いから繋げないのだ。
 無情、無情。
 なんちて、棒人間は寂しがったりしないのだ。
「どこまで触れるのかな?」
「どこまで、って?」
「うーんと」
 のそのそと七色さんがこちらに這ってくる。
 そして僕の隣で両手を広げた。
「ぎゅってして?」
「うん」
 七色さんをぎゅっとする。
 ちゃんと触れる。
 全身で感じる七色さんは暖かい。
「七色さんってやっぱりちっちゃい」
「棒さん酷いよー」
 不貞腐れて僕の胸元にほっぺたを押し付けてくる。
 僕はもそもそと七色さんの背中を摩ってみた。
「服も触れる」
「うん。ていうか、これ棒さんの服だもんね。触れなくなったら困っちゃうよね」
「僕は別に。棒人間は無頓着主義なのだ」
 さすがに全部触れなくなったら困っちゃうけど。
 裸で外をうろつくような趣味はない。
 棒人間でも常識は知ってるのだ。
「袖が長くて手が出せないよー」
「七色さんってやっぱりちっちゃい」
「棒さん酷いってばー」
 袖を摘んで遊んだ後、今度は七色さんの髪の毛に触れてみる。
「髪も触れる」
「うん。あ、やめ、くすぐったい」
 反応が面白くて髪をもてあそぶ。
 七色さんはくすぐったさに身動ぎした。
「無表情でいじらないでー」
「棒人間は表情など作らないのだ」
「わぁ、棒人間怖い」
 その辺に落ちてたゴムで髪を結って遊ぶ。
 あらかた満足したら、今度は手を背中のほうから服の中へ侵入させてみる。
「うぅ!?」
「服の中、触れる」
「それ肌だもん手と同じっていうか、それだめ! 指で背筋なぞるのだめ!」
 反応が面白くて、ゆっくりゆっくり二往復。
 下に向けてなぞれば横に震え、上に向けてなぞれば背を伸ばすようにして震える七色さん。
 見ていてやっぱり面白い。
「あぁぁ……」
「ナメクジみたいになってるよ、七色さん」
「もうだめー……」
 ぐてーっと床に倒れる七色さん。
 足のほうを眺めていて、ぴこんと閃いた。
 足の裏をくすぐってみる。
「ひゃっ!?」
 すばやく足をひっこめる七色さん。
「何するのー!」
「つい。棒人間はイタズラが好きなのだ」
 不可抗力。
「棒さん怖い!」
「怖くない」
「怖いぃ!」
 足の裏をしっかり床につけて隠す七色さん。
 あぁ、見てて飽きないなぁ。
 だから棒人間はイタズラが好きなのだ。



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