「自分を棒人間って呼ぶのはなんで?」
 明日の準備をと教科書を詰めていると、ふと七色さんから問われた。
 僕は自然、首を傾げる。
「なんで、って?」
「棒さんって、無個性とかじゃないと思うんだよね」
「んー。七色さんの前ではそうかもね」
 奇しくも同居することになった子だ。
 さすがに一日丸々棒人間スタイルとはいかない。
 家では、そりゃくつろぐよ。
「僕は学校では、それはもう棒人間スタイルだよ」
「そうなんだ?」
「誰の関心も惹かないことに全力を尽くしてるからね」
「男子の制服で登校してるから説得力はないね」
「まあね」
「でも、人付き合いを避けるのって、なんで?」
「んー」
 面倒だから、かな。
 人付き合いは面倒だ。
 遊びに行くとか、遊びに来るとか、かったるくて仕方ない。
 棒人間は予定が嫌いなのだ。
 僕が答えないのを見て、七色さんは次の問いかけをする。
「じゃあ、私ってなんで七色さん?」
「んー」
「私と棒さんって、そんなに違いあるかな」
「僕が幽霊だと申すか」
「いや、そうじゃなくてさ」
 七色さんは僕の顔をじっと見つめる。
「自分じゃ冴えないって言っても、顔立ちは綺麗だしー」
「棒人間に顔など要らぬのだ」
「話してみると、よく喋るしー」
「棒人間に口など要らぬのだ」
「えちぃことするし」
「棒人間はイタズラが好きなのだ」
「とにかく棒さんは個性的だよ? 私には七色に見えるなぁ」
「まさか」
「結局、なんで私って七色さん?」
 仕方ない、お答えしよう。
 棒人間は諦めが早いのだ。
「僕は、今まで色を持った人と関わったことがない」
「色?」
「なんだろう、一緒に居てもつまらないの。ところが、七色さんは面白い」
「そうかな?」
「うん、面白い」
「それで、七色?」
「んー」
 僕は説明しやすいようにと、ノートと色鉛筆を引っ張りだしてきた。
 テーブルに広げて、白紙のページに黒い線を書いていく。
 たくさんの棒人間だ。
「たくさん人が居るじゃん」
「わぁ、棒さんいっぱい」
「んー」
 次のページ。
 本気の絵でたくさんの人を描いていく。
 バランスはこれでもかと言うほどに悪いけど。
「絵うまっ」
「棒人間は意外な特技を持ってるのだ。でもこれじゃ分かりづらいから前のページに戻るよ」
 改めて、たくさんの棒人間が書いてあるページ。
「これらは僕が関わったことがないか、今まで関わってきた色のない人たち」
「うんうん」
「ところが」
 一人の棒人間に綺麗な色を足していく。
 頭部分が綺麗な虹色になった。
「そんな景色に七色さんが乱入」
「これ私ー?」
「一応。多分」
「多分!?」
「とにかく、どう? これが僕の見てる景色そのもの」
「?」
 首を傾げる七色さん。
 分かりにくいらしい。
「人ごみの中に七色さんが乱入してる」
「うん」
「一目瞭然、どれが七色さんかすぐ分かる」
「うん」
「これが僕の見てる景色」
「んん?」
 尚も悩ましげに目付きを険しくする七色さん。
「七色さん」
「?」
「だから僕は、七色さんがどこに居たって一目で見つけることができる」
 七色さんは真剣な表情で僕を見ている。
 こんな棒人間の顔を見て何が面白いか。
「僕の中で色のある人。僕にとってそういう存在感を持ってる人。だから七色さんなんだ」
「……えっと」
 僕は話し終えたのでノートを片付ける。
 明日も早い。
「つまり、それって、友達ってことかな?」
「かな?」
「不思議と友達って、後ろ姿だけでも『あっ、あの子だ!』って分かるもん。そういう存在感を持ってるんだ」
「んー」
 ちょっと違う。
「友達なら僕の人生にも居た。今は居ないけど。でも、その友達はみんな色がなかった」
 つまらなかった。
 一緒に居て楽しくなかった。
 だけど七色さんは、一緒に居て楽しくない、なんて感じたことはない。
「じゃあ、ホントの友達かな?」
「……んー。ホントの友達と、そうじゃない友達の違いってなんだろう」
「七色かどうかだよね?」
「あ、そうか」
 なるほど。
 僕にとって『七色さん』っていうのは、ホントの友達。
 ホントの友達だから、こんなに色付いて見える。
 どれほどの人に埋もれてたって見つけられるほど、僕にとって大きな存在。
 それって、ホントの友達。
「うん、それだね」
 納得。結論。
「じゃあ私にとって、棒さんは七色さんでもあるね」
「ん?」
「だって、私と棒さんはホントの友達」
 七色さんの前では、七色さんの目の中では、僕は棒人間じゃなくて七色になっている。
 面白い。
 だけど、なんだかな。
「ごめん、今日の話はなし。僕に七色は似合わない」
「うーん、そうかも?」
「今まで通り、僕は棒人間スタイルを貫くよ」
「棒さんらしい」
「棒人間の信念は固いのだ」
 たまの真面目な話に、頭が痛む。
 ああ、明日もまた、僕の棒人間ライフは始まるのだ。
 なんだか、僕にもちょっと色が付いた気がする。
 だけど、やっぱり僕に色は似合わないと思うのだ。



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