鍋がことこと鳴っている。
 美味しそうな匂いが台所を染める。
 小皿にとろとろとおたまで盛って、ちびっと口へ一滴。
「うん、くりーみー」
 さすが僕。
 棒人間は料理が好きなのだ。



「ご飯だよー」
 言いながらテーブルにお盆を並べていく。
 二人分。
 七色さんがきょとんとしている。
「エプロン姿がそんなに珍しい?」
「それもだね。でも料理が一番珍しいかな。いっつもお弁当買って食べてるのに」
「棒人間だって料理はするよ」
「そうなんだ。シチューだね」
「うん、シチューだよ」
 テーブルを挟んで、二人で向き合う。
 七色さんは幽霊だけど物を食べられるのだ。
 本当に幽霊なのか。
「七色さん、ご飯? パン?」
「パン。え、棒さんもしかしてご飯?」
「んー。そうするよ」
「ええっ、嘘」
 驚かれた。
 なんでだろう?
 分からないので首を傾げると、七色さんはなんかわたわたしていた。
「シチューはパンでしょ」
「そういうこだわりはないかな」
 パンでもご飯でも、シチューはシチューだ。
 僕はシチューが食べたいだけなので、どっちでもいい。
「どっちかっていえばパンのほうが合うよね?」
「んー」
 合うか合わないか。
 …………。
 ……。
 難問だ。
「どっちみちシチューは食べられるし、パンでもご飯でも同じじゃないかな」
「えええ」
「さ、食べよ」
 七色さんは何か言いたげではあったが、諦めて気分を改めたらしい。
 僕と七色さん二人同時に手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
 スプーンでシチューを掬い、口に運ぶ。
 美味しい。
 やっぱり、さすが僕だ。
「棒さんって料理上手いのに、なんでお弁当の日が多いの?」
「その理由は簡単」
「それって?」
「洗い物めんどくさい」
 なるほど、と七色さんは力の抜けた笑いを零す。
「料理は好きなんだけど。これだけはダメだ。洗い物のこと考えると『あー』ってなる」
 七色さんは笑いながら頷きを繰り返す。
 分かってくれたようで何より。
「どうにかならないかな。洗い物が何もないシチューの作り方」
「うーん、無理だよね」
「だね。あー、洗い物めんどくさい」
 食後のことを考えると食欲が失せる。
 棒人間は面倒臭がりなのだ。
「だから数日分作り置きするんだけど」
「うん」
「食べ終わったら、鍋の大きさに『あー』ってなる」
 なるよね、って頷きながらシチューを食べる。
 パンをちぎってシチューに付けて口に。
 美味しそうに食べるなぁ。
 僕はきっと、いつも通り棒人間フェイスを貫いてるんだろう。
 無表情、無表情。
「このお肉って?」
「牡丹肉。イノシシだよ。いけるでしょ」
「いけるね。でもちょっとクセがある?」
「そこがいい」
「うん、確かに」
 最初はちょっと苦手だったけど、今ではお肉の中では最上ランクに好きだ。
 豚も牛も何のその。鶏には一歩及ばない。
「あっ」
「どうしたの?」
「カボチャシチューも食べたくなってきた」
「あー、いいね」
「失敗した。入れればよかった」
 あの甘みが欲しい。
 何か足りないと思ったら、それだ。
 完成してから入れるのもなんだし、今はカボチャないし。
 参った、参った。
「おかわりってある?」
「あるよ」
「やった」
「美味しそうに食べるからサービス」
「わぁ、お肉ありがと」
「棒人間は優しいのだ」
 このペースで三日分。
 三日後には鍋を洗わなくてはならないと思うと、やっぱりとってもめんどくさい。
 あー。
 もうしばらく料理はいいや。



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