……寝付けない。
 昨日、休みだからと夜更かししたのがいけなかった。
 目が冴えてしまっている。
 うーん、参った。
「七色さん、寝た?」
 姿勢を変えずに言ってみる。
「まだだよ? 棒さん、まだ眠れないんだ?」
 背後で声。
 そっちこそ。
「うん。今何時?」
「二時回ったかな」
「うそ。毛布被ってもう三時間」
 勘弁してほしい。
 僕は寝たいのだ。寝ねばならぬのだ。
 睡眠薬が、それも強力なやつが欲しい。
「いっそ朝まで起きてたらどうかな?」
「……ダメ。今日テスト。学校で寝てらんない」
「あー。それはダメだね」
「ただでさえテストは眠くなるのに。あー、もうおしまいだ」
「棒人間は睡魔に弱いんだね」
「棒人間は睡魔に弱いのだ」
 だから睡魔、早く、早く。
 僕はここに居るぞ、襲え。
「七色さん」
「なに?」
「一緒に寝よ」
「わ、出た」
「出てない」
「触るでしょ」
「触るけど」
「ほらー!」
 ベッドの上に起きて、七色さんの居るほうを向き、グーにした手を僕の口元に添える。
 足も程よく崩し、もう片手で枕を抱える。
「棒人間は寂しがりなのだ」
「そんなポーズしてもダメだよ」
 くっ、ダメか。
 僕には無理があったようだ。
 棒人間はあざとさと無縁なのだ。
 こういうのは七色さんのような子がやってこそ映えるもの。
 それと比べれば月とすっぽん、雲泥万里。
 世の中は不公平だ。
「じゃあ単刀直入。僕は七色さんと寝たいのだ。なぜなら」
「なぜなら?」
「……やっぱりやめた」
「え、気になる!」
「教えて欲しかったら、一緒に寝よう」
「ずるいよそれ!」
 棒人間は意地悪なのだ。
「どう。七色さんも気になって眠れなくなったでしょ」
「う」
「寝たかったらおいで」
 渋々といった様子だが七色さんは頷いてくれた。
 棒人間の勝ちなのだ。
 七色さんがもそもそとベッドの上に上がってくると、自然向き合って座る形になる。
「一緒に寝るって、向きが難しい」
「うん、確かに」
「僕は七色さんのほうを向くよ」
「うーん。向かい合ってたら寝にくいと思うし、私は背中を向けるね」
「うん、いいよ」
 七色さんから寝かせ、僕も続いて横になる。
 七色さんの髪の毛に触ってみると、くすぐったそうに身動ぎをした。
「う、やっぱり不公平な気が……」
「じゃあ向かい合う?」
「背中合わせが一番いいかな」
「なら、それは今度」
「今度もあるんだ」
 見えないのに、どんな表情を浮かべているのか分かる。
 力の抜けた笑い顔だ。
「向かい合うのがダメなら、胸の中で寝るのは?」
「えー、それはちょっと照れるかなぁ」
「そっか」
 ちょっとやってみたくなった。
 でも、これもまた今度だ。
「じゃあ、約束を果たすよ」
「うん。教えて教えて」
「あの続きは考えてない。七色さんと寝るための罠」
「やっぱりずるい!」
「棒人間はずるいのだ」
 出て行こうとする七色さんを止める。
 格闘の末、いつの間にか七色さんの意識はまどろみの中へ落ちていた。
 僕も疲れた。
 おかげでやっと眠れそう。
 おやすみ、ありがとう、七色さん。



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