「告白された」
 帰るなり七色さんに報告する。
 七色さんはぽかんとしていた。
 片手にシャケを乗せながら首を傾げる。
「……え?」
「これ」
 一枚の手紙をポケットから取り出して、七色さんに渡す。
 七色さんは広げて読み上げる。
「『放課後、桜の樹で待ってます』……って、一行?」
「それ渡されて」
「大事なこと何も書かれてないね」
「うん。果たし状かと思った」
 カバンを適当に放り、帰りに自販機で買ってきたお茶を飲む。
 いつものように向かい合って座ると、七色さんは手紙を返してきた。
「それで、どうしたの?」
「一応行ったよ。可愛い女の子だった」
「あ、やっぱり女の子が相手なんだ」
 まあ、男子の制服着てるので。
「それで告られた」
「なんて?」
「『一目惚れしました、付き合ってください』」
「おぉ、モテるね棒さん」
「でも、僕は女子だし。それを打ち明けたんだ」
「隠すわけにもいかないしね」
「念のためバイだっていうことも打ち明けた」
「ばい?」
「男の子も女の子も、どっちも恋愛対象になる人のこと」
「へえーそうなんそうだったの!?」
「曲がりなりにも」
 棒人間はバイなのだ。
 重要。
「じゃ、じゃあまさか、私へのセクハラは」
「さあ、どうかな」
「棒さん怖いぃ……」
 新しい怖がられ方。
 本気でビビられているようだ。
「僕がどんなであれ、僕は僕。バイかどうかは些細なこと」
「うん」
「七色さんの見る目さえ変わらなければ、今までと変わらない」
「分かった。棒さんは棒さんだもんね。今まで通りだ」
「うん、偉い」
 人の変なところを受け入れるのは凄いことだ。
 僕は別に、変ではないと思ってるけど。
「で、結局告白されて振られる結果になった」
「そっかぁ」
 人間って難しい。
「棒人間ライフが守られたと考えることにするよ」
「あっれー、実はへこんでる? 慰めてあげよっか?」
「うん。お願い」
「よしよし」
 頭を撫でてくれた。
「あぁ、癒される」
「シャケさんも撫でてあげるって」
「ありがとうシャケさん」
 シャケの手を僕の頭にぽふっと乗せる。
 なんか、可愛いなぁ。
 発想が。
 僕にはとてもマネできないと思う。
「七色さん優しい」
「そうかな?」
「うん」
「そっかぁ」
 撫で終わると、七色さんが少し距離を置いて僕を見る。
「棒さん棒さん」
「ん」
「女子の制服は持ってないの?」
「んー、あるはず」
「へえ、着てみてよ!」
「え、嫌だ。僕、スカートって無理で」
「シャケさんも見たいってー」
「ん」
 小癪な。
「多数決ー」
「シャケさんがそう言うなら」
「わぁ、シャケさん強い」
「僕の矜持に反するけど、仕方ない」
 スカート、本当にダメなんだよなぁ。
 他の女の子が履くのを見るのは構わないんだけど。
 ……他の女の子。
「じゃあ、僕の次は七色さんが着て」
「え、サイズ合わないんじゃないかな?」
「いいよ」
「えー」
「嫌そうだね。なら着ない」
「あー分かったって! 着るよ!」
 やられたらやり返す。
 うん、良い言葉だ。
 棒人間はタダじゃ終わらないのだ。
 物の少ないクローゼットから制服を引っ張り出してくる。
 セーラーだ。
 溜息が出る。
「棒さんってさ」
「ん」
「心は男の子だったりする?」
「……んー。デリケートだね」
「ごめん」
「いいよ。それは僕でもよく分からないんだ」
「分からない?」
「子供の頃スカートを嫌ってたら、病院に連れて行かれて、そういうレッテルを貼られた」
 その頃は、今よりもっと男の子っぽかったから、そうなったんだろう。
 だから男子の制服で登校することも認められている。
 スカートを履かなくて済む。
 奇怪だから僕と関わろうとする人も少ないので、棒人間ライフも守られる。
 そう考えれば、これは僕にとって好都合なレッテルだ。
 だが僕は思う。
 僕は女の子でも男の子でもない、棒人間なのだ。
「そっかぁ」
「バイとは言ったけど、実際には微妙なところ」
「え、そうなの?」
「ただ、女の子は好きになったことあるから」
「男の子は?」
「よく分かんない。だけど、無理ではなさそうって考えてた時期はある」
 それはまだ、棒人間ライフを志す前。本当に子供の頃の話だ。
 棒人間にだって過去はある。
 やがてセーラー服に着替え終えた。
 ……やっぱ、無理。
「わぁ」
「似合ってないよね」
「ううん、かっこいいよ」
「そうかな。あ、もう脱ぐ」
「えー」
「女の子は凄い」
 スカートなんて好き好んで履けない。
 手早く着替え終えると、七色さんにセーラー服を渡す。
「次は七色さん」
「はぁい」
 着々とセーラー服を着ていく七色さん。
「スカート大きくて無理ー」
「じゃあスカート以外」
「もう着たよー」
「うん」
 七色さん、輝いてる。
 はにかんで笑う、その仕草。
 七色さんの姿を見ていると、少し思い出す。
「どう?」
「うん、似合ってる」
 僕が恋した女の子のことを。



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