お菓子を買ってきた。
 僕にしては珍しく奮発した。
「どしたの、棒さん?」
「たまにはと思って」
 棒人間は気紛れなのだ。
 甘そうなお菓子としょっぱそうなお菓子を均等に買った。
「味が偏ると、飽きたときに困る」
「うんうん、分かる」
「そんなわけで、食べよう」
「夕ごはんの時間だよー?」
「ん。……後ほど食べよう」
「偉い偉い」
「棒人間は偉いのだ」
 えっへん。
 少し良い気分になりながら、いつものようにお弁当をテーブルに出した。
 シャケさんがお弁当の隣に座ってこっちを見てくる。
 ごめん、シャケさんの分はないんだ。
 食費、掛かるし。
「じゃあ、いただきます」
「うん、いただきます」
「わぁ、大きいシャケの切り身」
「シャケさんだね」
「ごめんねシャケさん」
 シャケさんは動かずこっちを見ている。
 そっぽを向かせた。
「なんで向き変えたの?」
「ちょっと食べにくかった」
「なんで?」
「シャケさんの前でシャケを食うなど」
 ぬいぐるみでも、見られてると落ち着かないなぁ。
「うーん。あっち向いてたら、なんか拗ねちゃったみたいに見えるね」
「ん」
 そう考えたら、これまた食べづらい。
 小癪なシャケさんだ。
「仕方ない、こっち見てなさい」
 くいっとシャケさんをこちらに向ける。
 不仲より良い。
 棒人間は平和が好きなのだ。



 夕飯を終えてしばらく経つ。
 十時を回った。
「……んー」
「お菓子、食べにくいよね」
「そうだね」
 これはまずい時間帯だとどこかで聞いた覚えがある。
 ……うーん。
 僕はあまり気にしないタイプだと思っていたけど、知ってしまったものは気になる。
「……棒人間は情報に惑わされないのだ」
「ガセじゃないと思うけどね」
「さて」
 お菓子が入った袋を持ってきて、テーブルに置く。
「適当に引いたのを食べる」
「わぁ、ギャンブル」
「棒人間は運が良いのだ」
 気分は甘いもの。
 シャケが思いのほかしょっぱかった。
「てい」
「スナック菓子だね」
 のりしお。
 無念。
 ……棒人間は撤回などしないのだ。
「食べよう」
「うん、たまにはいいかもね」
 袋を手に、じっと見つめる。
「……パーティ開けって、どうやるんだっけ」
「パーティ開け?」
「ほら、皆が取りやすいように、こう……」
 ジェスチャー混じりで伝える。
「がばっと」
「ああ、がばっと」
「うん」
「私、出来るよ」
「七色さんすごい」
 袋を託す。
 こなれた手付きでパーティ開けした。
 七色さんすごい。
「開けた瞬間って匂い楽しむよね」
「あ、七色さんずるい」
「袋を開けた勇者だよ。ひかえおろー」
「ははー」
 …………。
 はっ。
 罠か。
「さ、食べよ食べよ」
「棒人間は細かいこと気にしないのだ。うん、食べよう」
「ごめんって」
「グチグチ言わないのだ」
「言ってるじゃん」
 気を改め、袋から一枚取り出す。
 七色さんも同じように手に取った。
「じゃあ」
「うん」
「かんぱーい」
「いただきまーすじゃないんだ」
 スナック菓子同士をがっとぶつける。
 割れた。
「あ」
「あ」
「……崩れても美味しく頂ける。偉大」
「スナック菓子偉い」
「小さいほうが味は濃そうだし、お得」
「そうだね」
「ぐしゃぐしゃにする?」
「それは食べにくいかな」
 適当に食べながら談笑する。
 たまのお菓子は良い。
 時間は気になって仕方ないけれど。
 ……やっぱりおやつは三時に食べないと、食べ時を失うなぁ。
 そういうことなんだ、三時のおやつって。
 うん、三時はちょうどいい。
 しばらくして、食べ終わる。
「ごちそうさま」
「うん。美味しかったぁ」
 時刻にして十一時。
 ……一時間もかけて食べたんだ。
 太らなければいいなぁ。
 棒人間スタイルを保つのは大変なのだ。
 絵に描いた棒人間ほど痩せてるわけでもないけど。
「んー……。寝る」
「うん、おやすみ。あ、歯は磨いてね」
「虫歯は嫌だしね」
「シャケさんもそう言っておられる。さあ、行くのだ」
「ははーシャケ様ー」
「一枚も食べられなくてカンカンらしいよ」
「ごめんシャケさん」
 良い子のみんなは歯を磨いてから寝よう。
 棒人間との約束だ。
 ……なんて。
「七色さんも磨こう」
「はぁーい」
 一緒に洗面所へ。
 残りのお菓子は、いつ食べよう。
 学生は三時も学校なので辛いのだ。



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