「通信簿貰ってきた」
 夏真っ盛り。
 暑い。
 しかし目前には長期の休みが控えている。
 それを思えば耐えられるというものだ。
「わぁ、見せて見せて」
「うん」
 手渡す。
 じっくりと読む七色さん。
「わぁ、微妙」
「直球」
「ごめんね」
「これが棒人間らしい成績なのだ」
 実際そうだと思う。
 だいたい平均点。
 うん、悪くない。
 少なくとも目立たないラインというのは文句の付けようがないほど美しい。
 ……なんて思ったり。
「どのコメントも『真面目』って書いてあるね」
「特徴がなくてどうしようもなかったんだろうね」
「さすが棒人間」
「棒人間は先生を困らせる力を持っているのだ」
「わぁ、棒さん不良」
「これはこれで迷惑なのかもね。コメントのしようがないのに何か書かなきゃいけない」
 なかなか厳しい罰ゲームだと思う。
「何にしても、そろそろ夏休みだ」
「何かやりたいことあるの?」
「この前買ったお菓子を食べる」
「あぁ、余ってたね」
「ずっと七色さんと一緒に居る」
「インドアだね」
「七色さんさえ部屋から出られれば、アウトドアだってするんだけど」
 一人でアウトドアって。
 どこ行っても寂しそうだ。
 一人で海に行くとか、一人で山に行くとか。
 棒人間フェイスが板についた僕を見たら、死にに来たのかと疑われること受け合いだ。
 ……実際、楽しそうではあるんだけどな。
 今年くらいは悪くないのかもしれない。
 でも結局行かないだろうな。
「僕は七色さんと一緒が一番幸せなのだ」
「そ、そっか?」
「好きだー七色さんー」
「シャケさんガード!」
「ぐっ」
 シャケさんを盾にされた。
 小癪な。
 これでは如何なる行動もシャケさんで防がれてしまう。
「仕方ない。僕だって腕が吹き飛ぶのはごめんだ」
「わぁ、シャケさん強い」
「棒人間印のシャケさんだからね」
「棒さん凄い」
 それにしても、もう夏休みだ。
 高校一年生の夏なので、思えば七色さんと出会って、そこまで時間が経ってないんだな。
 実感すると、あっという間にここまで仲良くなれたのは不思議なことかも。
 まして、この僕が、だ。
「七色さん」
「ん?」
「なんか、ありがとう」
「なにそれー」
「僕、ここまで仲良くなれた人って初めて。しかもまだ出会って半年も経ってないのに」
「そういえばそっか。もうずっと一緒な気がしてた」
「そう言ってくれると嬉しい」
 七色さんはシャケさんの手を操りながら、んーと唸りながら考え事に入る。
 そしてしばらくして、にっと笑った。
「友達なのかな、親友なのかな? 私たちって」
「定義が分からないね」
「だね」
「でも、友だ」
「うん。これからもだよ」
「ありがたや。でも、まだ親友クラスじゃないかもと思うとちょっと残念」
「ん。じゃあ、こう考えようよ」
「ん」
「これからもっと仲良くなれる」
 僕は顎に手を当てて、今の言葉を反芻する。
 まだ半年も経っていないのにこんなに仲が良くて、少なくとも高校卒業まで一緒だ。
 時間はたっぷり残っている。
 その時間を、互いが互いを好きになるために使っていくんだ。
「うん。それ、最高」
「でしょ!」
 棒人間スタイルで生きてきた僕だけど、七色さんの言葉にじーんと来た。
 辛うじて表情は変わってない……と、思うけど。
 七色さん、本当に良いなぁ。
「あー、大好きだー」
「シャケさんガード!」
「くっ。またも立ち塞がるか」
「これで来られまいー!」
「仕方ない。楽しみは夏休みに取っておく」
「わぁ、棒さん怖い」
「怖くないよ」
「そうかなぁ」
 これからもっと暑くなる。
 だけど今年の夏は、これまでの人生のなかで一番早く終わるだろう。
 さあ、もう少ししたら楽しい夏休みの始まりだ。



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