七色さんが消えて、もう三年が経った。
 ほとんど一人で過ごした高校生活は、相変わらずの棒人間ライフだった。
 その間、ずっと、ずっと、待っていた気がする。
 高校一年。
 その春と夏、いっしょにいた女の子。
 彼女は、僕の親友だ。
 約束通り、僕はいつでも待ち続けているよ。



「ただいま、シャケさん」
 テーブルに座らせたシャケさんに挨拶。
 僕は今でも、あの一室に住んでいる。
 ここで過ごしたあの半年未満が、僕の全てのような気がするからだ。
 手元に残った確かなものは、シャケさんと髪飾り一つだけ。
 だけど確かに残ってくれた、七色に光る彼女の名残。
 これがあるからこそ、僕は待ち続けることができたのかもしれない。
 僕と七色さんを繋ぐ橋。
 いつか渡ってきてくれる日を、未だに待ち望んでいるのだ。



 ときどき思うのだ。
 七色さんは自分のことを思い出したから、居なくなったんじゃないかって。
 つまり、未練みたいなものがなくなって――
 ――そこまで考えて、いつも止めている。
 それじゃあ、帰ってきてはくれないということだ。
 だから嫌な想像はやめよう。



 七色さんが消えたあの日、どんな顔して過ごしたと思う?
 答えは内緒だ。
 ただ一つ言えるのは、僕は棒人間として、まだまだ甘かったということくらい。
 その次の日、僕は実家に電話をかけた。
 誰かと話していないと死にそうだったから。
 出たのは姉だった。
 すっごくびっくりしてた。
 初めての電話だったし、何より、様子が僕らしくなかった――らしい。
 正直、電話の内容なんて覚えてない。
 今更聞こうとも思わない。
 でも、ただ一つだけ。
「父さんも母さんも寂しがってる」と言われたのを覚えている。
 僕も珍しく寂しいと思っていた頃だったから、なんとなく気持ちが分かって。
 それからの夏休み、僕は実家で過ごすことにした。
 けっきょくいつも通りの僕を見て、それでもみんな笑ってくれて、嬉しかった。



 それから、意外な再会もあった。
 僕の初恋の人のことだ。
 帰省中、コンビニに立ち寄ったときのこと。
 こんな棒人間のことを覚えていて、話しかけてくれるなんてさ。
「あれから話してくれなくなって寂しかったんだよ」って言ってた。
 いつだって声をかけてくれたのは、あなただった気がする。
 ……きっと、僕から話しかけていたら、あなたはほっと安心したのだろう。
 今ならなんとなく分かるのだ。
「あの時はごめんね」と言ってくれて。
「大丈夫」って返事をした。
 自分から笑ってみたつもりだった。
 上手くいったとは思えないけど、笑い返してくれたから嬉しかった。
 彼女は今でも、僕と遊んでくれる。
 なんならこの部屋にお招きしたことも、ちょっとだけ。
 笑顔が上手で羨ましいと……、思ったり、思わなかったり。
 僕の生活は、いつの間にか一人きりの道じゃなくなった。



 だけど僕は、それでもまだ七色さんを待っているのだ。



 僕はあれから、少しは前に進めたのだろうか。
 進んではいけない気もするし、進まなきゃ七色さんに怒られる気もした。
 だから、保留した。
 進むのも、進まないのも、待つのをやめてから考えることにした。
 僕は七色さんと進みたいし、七色さんと立ち止まりたいと思ったから。



 僕は兄と姉に、また一つ、わがままを通した。
 あと一年だけ待ちたい、って。
 あと一年だけこの部屋に居たい、って。
 ……この一年で会えると確信してるわけじゃない。
 きっと未練がましく「あと一年」「あと一年」とお願いし続けるだろう。



 僕はこの三年、色んなことを考えた。
 七色さんにもう一度会えたら、どうしようか。
 一緒にいられなかった秋や冬も一緒にいたい。
 見られなかった花火も見たいし、なんなら一緒にお出かけしたい。
 結局、僕はいつも通りの表情だろうけど。
 君は笑ってくれるって、いつでも笑ってくれるって、思ってる。
 叶わない絵空事なのだろうか。



 だけどもし、それでももし、もう一度七色さんに会えたなら――
 柄にもなく大きな声を上げて、泣いてしまうのかもしれない。



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